
原状回復工事とは、賃貸物件を退去する際に、入居時の状態に近づけるために行う修繕や清掃などの対応を指します。
たとえば、壁紙の貼り替えやフローリングの補修、破損した設備の交換などです。ただし、経年劣化や通常の使用による傷みまで負担しなければならないわけではなく、どこまでが借主の責任なのか判断が難しい場面もあります。
余計な費用やトラブルを避けるためには、原状回復のルールや相場、進め方を事前に把握しておくことが重要です。
この記事では、原状回復工事の基礎知識から費用の目安、作業の流れ、注意点までをわかりやすく解説します。安心して退去日を迎えるために、ぜひ参考にしてください。
Contents
原状回復とは?
原状回復とは、賃貸物件を退去する際に、入居時の状態にできるだけ近づけるための対応を指します。
オフィスや店舗などの事業用物件では、居住用物件と違い特約として経年劣化による汚れや傷まで借り主の負担で復旧になる事が多いです
小規模なオフィスや、オーナーとの直接契約などで経年劣化や自然な消耗は復旧しなくて良い事も多々ありますので
契約内容をよく確認する必要があります
原状回復の範囲については、貸主と借主の間でトラブルになることも多いため、国土交通省は「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」という指針を公表しています。
ただし、このガイドラインは居住用物件を前提としています。オフィスや店舗などの事業用物件では、契約や特約の内容によっては、経年劣化による汚れや傷まで借り主の負担になる場合もあるため注意してください。
そのため、原状回復の具体的な対応内容は、契約書の内容とこのガイドラインを照らし合わせて確認し、退去時のトラブルを防ぐことが大切です。
参考:「民法改正法が令和2年4月1日に施行されました。」「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」(国土交通省)
原状回復の工事内容
原状回復の工事内容は、「どこまで直せばいいのか?」という疑問につながりやすく、退去時のトラブルにもなりやすいポイントです。
ここでは、原状回復工事に含まれる代表的な作業内容や、よくある修繕箇所についてわかりやすく解説します。
- 備品や設備の撤去(デスク・チェアなど借主が持ち込んだものは全て撤去となります、消火器やゴミ箱などはビル側設備の事が多いです)
- 床の修繕や交換、撤去(タイルカーペットの張替・借主が敷設したOAフロアの撤去)
- 壁の修繕(壁紙の張替や壁の塗装、ビスや設備の穴の補修)
- 天井の補修(天井ボードの張替・補修・再塗装・増設照明やアクセスポイントなどの撤去)
- 造作物の撤去(パーティション・間仕切り)
- クリーニング(給湯やトイレの水回り、タイル床・ブラインド・サッシ・エアコンのフェイス等)
- 電気関連設備の撤去(電話回線・電気回線・LAN)
原状回復にかかる時間
原状回復工事にかかる時間は、広さや工事内容によって異なります。
オフィスの広さに対する大まかな工事期間は、以下のとおりです。
広さ |
工事期間 |
30坪(約100㎡) |
1~2週間 |
100坪(約330㎡) |
2週間~1か月 |
100坪(330㎡)以上 |
1か月~ |
この工事期間は一つの目安であり、内装や設備の撤去、クリーニングなど工事内容によって、工事期間は変わります。
また、飲食店の原状回復工事は、規模と工事内容によって違いがあるものの、小規模の場合は1週間程度、大規模の場合は1か月以上になります。
さらに、スケルトン工事には2週間程度かかります。広さによって期間は延びることがあるため、早めに着手するのが安心です。
そして原状回復工事の依頼時には、以下の注意点があります。
- 工事内容次第では、作業不可能な時間帯や曜日がある
- 工事依頼者の希望日程では、工事できない場合がある
- 繁忙期は、できるだけ工事の依頼を避ける
原状回復工事の日程は、工事業者のスケジュールが優先され、工事依頼者の希望日程では実施できないことがあります。また、繁忙期に工事を依頼すれば、高額化や長期化することも考えられるため、注意が必要です。
そのため、原状復帰工事をする際は早めに計画を立てて、退去前に工事がすべて終わるようにしましょう。
原状回復と原状復帰の違い
原状回復と類似した言葉に現状回復と原状復帰があります。契約内容を正しく理解するためには、それぞれの違いを確認することが重要です。
そのため以下の表では、それぞれの意味の違いや使用場面、特徴をまとめています。
■原状回復(げんじょうかいふく)
意味 |
契約終了までに、借り主が賃貸物件を入居時の状態に戻すこと |
使用場面 |
法律や賃貸契約書で使用される不動産用語 |
特徴 |
契約書に基づき修繕や備品の撤去を行う義務がある |
通常使用による経年劣化や損耗について契約書に記載がない場合は、この部分について借り主が原状回復する必要はありません。
■原状復帰(げんじょうふっき)
意味 |
元にあった状態に戻すことで、原状回復と同義 |
使用場面 |
復帰工事をする建設現場で使用される建設用語 |
特徴 |
原状回復と同様の意味であるものの、賃貸契約上では原状回復を使用する |
原状回復工事の範囲と内容
事業用物件の原状回復工事には工事区分があり、A工事・B工事・C工事に分類されています。
それぞれの工事区分によって、工事の範囲や工事業者の決定権、工事費用の負担者、内容などに違いがあるため、以下で確認しておきましょう。
- A工事とは?貸し主が負担する工事
- B工事とは?借主負担+貸主手配・管理する工事
- C工事とは?借り主が全部負担する工事
A工事とは?貸し主が負担する工事
「A工事」とは、主にオフィスやテナントの賃貸契約において使われる用語で、「貸主(ビルオーナー)が負担・施工する工事」を指します。
ビルの基本的な設備や構造部分に関わる工事が該当し、以下のような内容が一般的です。
■A工事の内容
工事内容 |
具体的な場所 |
建物の構造部分の修繕・補修 |
外壁・屋根・基礎・柱・梁 |
共用部分の補修・メンテナンス |
エントランス・廊下・階段・エレベーター・共有トイレ |
貸し主が設置した設備の補修・交換 |
空調設備(共有部分)・給排水設備(共有部分)・電気設備(配線配管工事) |
耐用年数による経年劣化の補修 |
建物の老朽化による補修・改修工事、法改正による設備の更新(ビル全体の消防設備) |
■A工事のポイント
A工事は、ビル全体の維持管理や安全性に関わるため、貸主が主導して行う必要があります。入居テナントが内装工事を行う前に実施されるケースも多く、B工事・C工事(借主側が負担・施工する工事)との区分けが明確にされることが多いです。
なお、契約内容によっては一部費用を借主が負担する場合もあるため、工事区分の確認と詳細な打ち合わせが重要になります。
B工事とは?借主負担+貸主手配・管理する工事
B工事とは、主にオフィスビルや商業施設などの賃貸契約において使われる工事区分のひとつで、「借主が費用を負担し、貸主が手配・管理して行う工事」を指します。
■B工事の内容
1.インフラ関連の工事
- 電気工事(分電盤の設置・増設)
- 給排水設備工事(給排水・ガス・厨房設備)
- 空調システム全般(エアコン・排気ダクト)
- 防災設備の改修(スプリンクラー)
2.内装・設備の改修
- 造作物の設置・変更(間仕切り)
- 共有設備の変更(照明・換気設備)
■B工事のポイント
B工事は、借主の使用目的に合わせてカスタマイズされるものの、ビルの管理や安全性に関わるため、貸主側で施工管理を行う必要があるのが特徴です。
B工事は、A工事(貸主負担・施工)とC工事(借主負担・借主手配)との中間に位置するイメージで、工事内容や範囲は事前に貸主と綿密に打ち合わせて決める必要があります。契約時には、どの工事がB工事に該当するかを明確にしておくことがトラブル防止のポイントです。
C工事とは?借り主が全部負担する工事
C工事とは、主にオフィスや商業施設の賃貸契約において使われる工事区分のひとつで、借主が費用を負担し、自ら手配・管理して行う工事を指します。
■C工事の内容
C工事は専用部分で建物全体に影響を与えない工事が該当します。主な内容は以下のとおりです。
1.内装・レイアウトの変更
- パーティションの設置・変更
- 壁紙や床材の天井の変更
- カウンター・家具などの造作物の設置
2.設備の設置・改修
- 照明の増設や設置
- 通信・ネットワーク設備(LAN・電話)
- 専用部分のセキュリティ設備の導入
3.店舗・飲食店向けの特殊工事
- カウンターや什器の設備(テーブル・イス・ディスプレイ什器)
- 特殊設備(オープンキッチン)
■C工事のポイント
C工事は、借主の業務に合わせた自由度の高いカスタマイズが可能で、ビルの構造や共有設備に影響を与えない範囲の工事が中心です。
そのため、貸主の事前承諾は必要なものの、施工会社の選定やスケジュール管理などは借主が主体となって行います。
C工事は、退去時に原状回復の対象となることが多いため、契約書で原状回復義務の内容をあらかじめ確認しておくことが重要です。また、工事を始める前には、貸主の承認を得る必要があるため、早めの相談と申請がスムーズな対応につながります。
原状回復工事の費用相場と削減方法
原状回復工事には思わぬ費用がかかることもあり、退去時の大きな負担になりがちです。どれくらいの費用がかかるのか、相場を知らずにいると、適正以上の金額を請求されるリスクもあります。
ここでは、原状回復工事の費用相場と、費用を抑えるポイントを解説します。
- 費用相場の目安
- 費用を抑えるポイント
費用相場の目安
原状回復工事の費用は広さ・業種・工事内容によって違いがあります。それぞれの目安は以下のとおりです。
1.広さによる工事費用相場
<オフィス>
広さ |
費用相場 |
~30坪(~99㎡) |
30万円~ |
50坪(165㎡) |
100万円~ |
100坪(330㎡) |
300万円~ |
特殊な機器や設備があると急激に高くなることがあります、飲食店のように給排水設備や油汚れが残るような
施設はさらに高額になる事が多いです。
2.業種別の費用の相場
業種 |
費用相場(1坪・3.3㎡あたり) |
オフィス |
3~9万円 |
美容院・サロン |
5~20万円 |
小売店舗 |
3~15万円 |
飲食店 |
5~25万円 |
3.工事内容別の費用相場
工事内容 |
費用相場 |
照明・電気設備の撤去 |
約10,000円(1か所あたり) |
間仕切りの撤去 |
約3,500円(1㎡あたり) |
床の張り替え(カーペット) |
3,000~5,000円(1㎡あたり) |
壁紙の張り替え |
1,500~2,000円(1㎡あたり) |
天井の補修 |
10,000円~(1か所あたり) |
水回り(厨房・トイレ) |
約1,200円(1㎡あたり) |
水回りクリーニング(厨房・トイレ) |
40,000円~ |
撤去する物や変更点が多いほど、費用がかかる傾向が見られます。
費用を抑えるためのポイント
原状回復工事には、数百万単位の費用がかかることがあります。原状回復の工事費用は、大きな出費となりかねないため、できるだけ費用を抑えて実施しましょう。
以下では費用を抑えるポイントを解説します。
■貸し主と交渉する
貸し主と交渉することで、業者選定権のないB工事を業者選定できるC工事に変えることができます。業者選定権を得られれば、複数社から見積もりを取れるため、工事費用を下げられます。
■不要な工事は実施しない
原状回復工事は賃貸契約書に記載された範囲内で行いましょう。契約書によっては、経年劣化の補修義務が借り主にない場合があるため、事前に契約書を確認することが重要です。
■複数の見積もりを取る
複数の工事業者から見積もりを取ると、原状回復の相場がわかります。工事の見積もりは無料で算出してもらえるため、3〜4社から取り、適正費用を割り出しましょう。
■繁忙期は避ける
工事業者の繁忙期は1〜4月、9〜12月となり、スケジュールが埋まりやすい時期です。この時期に原状回復工事を行う場合は、早めにスケジュールを押さえるようにしましょう。
また、閑散期の5〜8月に工事を実施すると、スケジュールに余裕ができるほか、資材や人手を確保しやすく、割り増し費用がかからない場合があります。
原状回復工事の流れ
オフィスから引っ越しする日が決まったら、一般的に解約日の6か月前には貸し主に「解約予告」を行います。原状回復工事は賃貸契約終了日までに終えることが必要です。
以下では、原状回復工事の流れを解説します。
1.退去の決定と契約内容の確認(引っ越しする日の決定時)
賃貸契約書を見直し、原状回復工事を実施する範囲や費用負担者を確認します。不明な点は貸し主や管理会社に確認し、認識を一致させることで、トラブルなく工事できます。
2.現地調査と見積もりの取得(退去の約6か月前)
賃貸契約書に指定の工事業者が記載されている場合はその業者、指定されていない場合は工事業者を選定し、現地調査をしてもらいます。
原状回復工事を行う範囲を複数の工事業者に伝え、見積もりを提出してもらい、費用相場を把握しましょう。工事のスケジュールも工事業者に出してもらい、必要に応じて貸し主や管理会社に提出し、同意を得ておくことがおすすめです。
3.業者の決定と工事準備(退去の約2か月前)
届いた見積書の費用やスケジュール、工事範囲を確認・調整し、最適な事業者を選び発注します。その後、オフィスの引っ越しを行い、家具や備品の搬出を終えたら工事準備は終了です。
4.原状回復工事の実施(退去の約1か月前)
工事業者と契約の上、工事を実施します。着工したら定期的に工事の様子をチェックし、工事が契約通りに行われているか確認することで、工事内容の行き違いのトラブルを回避できます。
また、スケルトン工事は早めに着手し、万が一スケジュールが遅れても退去前に工事が終わるようにしましょう。
5.工事完了・貸し主の確認(退去の約1週間前)
原状回復工事が終了したら、貸し主や管理会社、自社の担当者が現場に集まり、適切な工事が行われたか、確認します。貸し主や管理会社から指摘があれば、責任の所在を明らかにした上で、工事を進めます。
6.退去手続き・敷金の清算(退去日)
工事が完了したら貸し主や管理会社の了解を得た後に、カギや書面などの手続きをして、引き渡しを行います。
入居当時に支払った保証金があれば、退去時に貸し主から返却してもらいましょう。保証金は一般的に賃貸料の3〜12か月分とされているため、原状回復工事の費用に充てられます。
原状回復の事例紹介
実際の原状回復工事は、どのように行われているのでしょうか。
オフィスレスキュー119Happyでは、これまで多くの原状回復工事を手がけてきました。
ここでは、実際の施工事例を写真とともにご紹介しますので、ぜひ工事のイメージをつかむ参考にしてください。
各種撤去作業と原状回復工事
千葉県の物流関係の企業様より、家具・パーティション・電気配線・通信配線などの撤去を含んだ原状回復工事の依頼がありました。
各種撤去作業を終えた後、床・壁・天井アンカー抜きを行い、数百か所に及ぶ補修工事を行いました。
工事は約2週間で終わり、ビル管理会社様の立ち合いの下で、最終確認をしていただきました。
事務所の原状回復工事
千葉県の事務所様より原状回復工事の依頼がありました。退去から5年以上が経過し、カビ臭や壁の劣化が進んだ室内を、低コストできれいな状態に戻したいとのご要望です。
原状回復工事は壁紙クロス・床の張り替え、トイレ回りの交換、巾木交換、什器搬入など全体に及びましたが、2週間の工期で終了しました。
依頼主様からは「カビ臭さがなくなり、トイレもきれいになった」とのご感想をいただいております。
自宅兼事務所から事務所への改装
埼玉県の事務所様からタイルカーペット施工とオフィス家具の選定・搬入・設置のご依頼がありました。
賃貸の一軒家のため、原状回復を視野に入れた改装を低コストで実施したいとのご要望でした。
そのため、カーペットの固定は両面テープを使って、最小限にしています。また、タイルカーペットやオフィス家具は、当社在庫からリユース品を選び、費用を抑えています。
自宅のくつろいだイメージから、集中力を高められるオフィスに雰囲気が一転しました。
原状回復工事を成功させるために
原状回復工事は、賃貸物件を退去する際に欠かせない大切な手続きです。しかし実際には、貸主や管理会社との間でトラブルが発生するケースも少なくありません。
こうしたトラブルを防ぐためには、まず賃貸契約の内容をしっかりと理解し、早めに準備を進めることが大切です。契約内容に不明な点がある場合は、専門家や相談窓口に相談することをおすすめします。
オフィスレスキュー119Happyでは、原状回復工事のご依頼も承っております。
ご検討中の方は、ぜひお気軽にご相談ください。経験豊富なスタッフが丁寧に対応いたします。